第8回：管理者からの恐怖は生産性を著しく阻害する

摘要

アニマルウエルフェア5原則の最後は、「恐怖と苦悩からの自由」である。「恐怖」は、危害を予知する情動であり、租暴な管理者、攻撃的な仲間、あるいは新奇性の極めて強い環境、例えば初めて搾乳室に入るとか、初めて真っ暗な運搬車に乗せるなどにより引き起こされる。攻撃的な仲間問題は、第4回目の資源競争の話題として紹介したのでここでは割愛する。「苦悩」は、やりたいことが抑制される欲求不満時や、やりたいことが2つ以上同時にあり、どちらを実行すべきか迷っている状態である葛藤時に起こる。これも第7回で紹介した「正常行動発現の自由」と重複するので、ここでは解説しない。したがって、今回は「租暴な管理者問題」を中心に解説し、あわせて「新奇環境問題」をごく簡単に紹介する。5つの側面からの飼育環境改善をめざすアニマルウエルフェアの中で、これまで紹介してきた4つの側面とは異なり、施設や飼料といったハードの改善の必要がなく、しかも生産性が大きく改善するこの側面は、我が国のみならずEUでも最優先に取り組まれるべき課題として認識されている。EUは2006～2010年のアニマルウエルフェア行動計画の中で、農家全体のアニマルウニルフェアレベルの底上げをめざしているが、その最初の取り組みは、管理者の家畜に対する行動改善に向けた「認知行動療法」の導入であることからも伺える。