体表炭化水素の多面的役割 一乾燥耐性の賦与と情報伝達物質としての働き一

摘要

昆虫は甲殻類と共通の祖先から進化したと考えられ， 両者の体のつくりには共通点が多く見られる。しかし， 昆虫はその進化の過程において陸へ進出する道を選hだ ことで，海中とは大きく異なる環境への適応が必要で あった。陸上生活への適応は，昆虫の皮膚にも見ることができる。昆虫は小型であり体積に比して体表面積が大 きいため，体内の水分が皮膚を通して失われやすく，こ れを防ぐことは陸上での生活にあたり解決すべき大きな 課題であった。昆虫の皮膚の最外層にはェピクチクラ(epicuticle)が形成されているが，皮膚を通した水分蒸 散防止にはェピクチクラ中の体表炭化水素（cuticular hydrocarbons,以後CHCと略す）が大きな働きをしてい る。CHCは多くの成分からなり，その組成が水分の蒸 散防止能力に大きく影響することが知られている。