本能と情動による物体認知のしくみ: 情動が担う好き嫌し、のしくみに

摘要

情動は，1)感覚刺激（環境内の事物や事象に関する情報）の受容，2)感覚刺激の生物学的価値評価，および 3)生物学的価値評価に基づく情動表出と情動の主観的体験の三つの過程からなる。特に生物学的価値評価は， 好き嫌いを含めて対象物体に対する動物の反応を制御している重要な過程である。好き嫌いは"情動"である。ヒトゃ 動物の生存に不可欠なおいしい食物や あるいは共感できる同種の仲間などの 有益となる好きな報酬に対しては快情 動（好きな感情）が,まずい食物や，生 存を脅かす天敵，肉食獣などの有害で 嫌いな罰に対しては不快情動（嫌いな 感情）が起こる。これら情動は，行動 を一定の方向へ誘導する動機づけの役 割を果たしている。すなわち，ヒトを 含めて動物は，快感や喜びを感じるも の（好きな物：報酬）を追い求め（接近 行動)，不快感ゃ怒り、恐れや悲しみを 与えるもの（嫌いな物：罰刺激）に対 してはそれを避けようとする（回避あ るいは逃避行動)。これらのことから， "情動"とは，個体の生存という観点 から自己にとつて有益か有害かの判断 (生物学的価値評価）と意味概念の認知をおこない，個体維持のために行動 を発揚させ,行動の動機(モチベーショ ン）を形成するシステムであると考え られる（後述参照)。