信州ジビエの取り組みと課題

摘要

長野県は四方を山と森に囲まれた山岳県である。山の麓、林縁部では、そこに暮らす人々と自然が織りなす里山が形成され、農林業が営まれている。江戸時代の長野県下には、このような林縁部に、長大な猪垣(猪鹿垣とも書く)が構築され、その当時から田畑を荒らす野生動物と人とが対峙する歴史があった。明治期初頭には、対策費用が不必要になるほど、野生動物による農作物被害は減少したと言われている(浦山、1999)。そして、大正^年(1923年)から平成6年(1994年)の禁猢解除に至るまで、二ホンジカは捕獲できなかった。しかし、今の長野県は、二ホンジカをはじめとする野生鳥獣による農作物被害がきわめて顕著である。野生鳥獣による農作物被害額は、平成S年以降、減少し続けているものの、平成^年度現在、約7億円もの被害を受けており、北海道、福岡県に次いで多い。また被害面積も、北海道、鹿児島県に次ぐ広さで、対耕地面積比率で被害面積を捉えると、鹿児島県の4.4%に次いで、長野県が4.3%と広い。長野県では、生息頭数が著しく増加し、生息範囲が拡大している野生動物に対処すべく、 二ホンジカ、二ホン力モシ力、イノシシ、ツキノヮグマ、二ホンザルと、5種にも及ぶ特定鳥獣保護管理計画(いずれも第一一種)を定めるなど、長野県は鳥獣害のメッカと言える。これら農作物被害をもたらす加害獣種のうち、二ホンジ力が占める割合が約^%と最も高い(林業被害を含めると全体のw%)。 ニホンジ力による食害は、農作物だけではなく、人工林、天然林にも及hでいる。二ホンジ力による立木への剥皮被害は、森林構造の改変が懸念されるほど深刻である。さらに、二ホンジ力の生息域は垂直方向にも拡大しており、標高2700 m付近にある国立公園内のお花畑が二ホンジカの食害を受け、一部、表土が露わになっている箇所もある。