医療システムの問題点と医療者のパフォーマンス向上による患者安全

摘要

抄録医療の現場ではヒューマンエラーが非常に多く発生している.この原因は，医療従事者の不注意によるため だけではなく，その背後にある医療システムが本質的に不完全であるためである.ヒューマンエラーとは，人 間の行動のうち，ある期待された範囲から逸脱したものである.人間の行動は，人間の持つ生得的な特性や知 識ゃ経験などの要因と，人間を取り巻く環境要因の相互作用によって決定される.医療システムは産業界のン ステムと比較すると，エラー誘発環境要因が極めて多い.また，患者を制御対象と考えると.問題解決のため に必要な情報が，最初から揃っていないシステムである.しかも.患者の状態は.壊れた状態にある.さらに. 患者の個体特性は.それぞれ違っている.したがって，医療システムは，制御が極めて困難なシステムである. 制御の本質は，将来状態の予測である.患者を診る時は，変化の情報に着目することが重要である.医療の現 状を考慮すると，この本質的な問題を，直ちに解決することは，非常に困難である.自分たちで取り組み可能なリスク低減の方法の一つは，医療従事者のパフォーマンス向上させることである. この例として，東京女子医科大学病院で実施された医療従事者の能力管理を紹介する.