フェライト鋼における転位運動に及ぼす炭素と窒素の影響の相異

摘要

一般的に鋼の強化に炭素や窒素など侵入型固溶元素の添加が有効であることは知られているが、その強化能は同等ではなく、フェライト鋼、マルテンサイト鋼において炭素が窒素よりも大きな強化能をもつことが確認されている。しかしながら、両者間で強化能に差が生じる原因は明らかになっていない。例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼において、その組織のサイズや形態への炭素と窒素の影響に顕著な差異が見られないことから、それらによる強化能の差異は、さらにミクロなレベルの因子、すなわち格子欠陥である転位や粒界との相互作用が両者で異なる可能性が考えられる。そこで、本研究では実験的手法で直接評価することが困難な転位-侵入型固溶原子間相互作用を計算シミュレーションである分子動力学法を用いて評価し、BCC格子中で運動する刃状転位の移動速度に及ぼす炭素と窒素の影響の相異を調査した。