自閉症圏を宙吊りにする他者：宙吊りにされる選択公理

摘要

システムとその外部との接触は、軋轢を生じ差異を生み出す。この差異や矛盾を最小化し、解消する過程こそ、通常、適応·進化·学習過程と呼ばれているものだ。しかし、内と外の齟齬は必ず解消されるという最適化の前提は、真に自然現象に適ったものだろうか。最初にあった大きな差異が解消され適応を実現するには、適応を実効的とする以前の段階をどのようにしのげばよいのか。メス蜂に擬態したランのめしべのような共生進化など、差異最小化によって説明できない問題は枚挙に暇がない。むしろ内と外の差異は、決して解消されず、ただ差異が精度の低い分解能の中に埋もれ、無効にされるのではないか。メス蜂に似ていないランのめしべにもオス蜂はいどみかかっていくのではないか。そういった差異を無効にする場所は、いわゆる空間として指定できぬ「向こう側」である。向こう側という場所として、外部は知覚され、伴われる。同様に脳は、絶えず脳内に他者を伴い、この脳内他者という場所において、肉体の外部である環境と自らの関係を無効にし、つないでしまう。本稿では、そのような描像を、自閉症圏から出発してモデル化し、その意義について論じる。特に集合論の基礎を成す選択公理を、自閉症圏のモデルとし、選択公理を否認し続ける他者の並存によって意識の一般モデルを構成する見通しを与える。