臨床動作法におけるトレーナーのスキルの生体力学評価

摘要

臨床動作法とは，“ことば”ではなく，“動作”を道具とする心理治療，すなわち“動作”を用いた非言語的なコミュニケーションを通して人がより充実した生き方ができるようにするための援助法である．もともとは脳性マヒの動作改善のための心理学的リハビリテーションとして開発されたが，その後，自閉症やうつ病，認知症など，非常に幅広く適用されるようになっている．そこではトレーナー（援助者）がトレーニー（被援助者）に課題を設定し，その課題を協力して達成することで，身体の緊張をほぐし，さらにはこころの緊張をほぐすということが行われる．実際の臨床動作法実施の様子を図1 に示す．この臨床動作法は，これまでに心理学·医学の分野で数多くの臨床的·実践的な研究が行われているが，身体運動の力学的な知見から療法効果のメカニズムを検討した例はない．そこで本研究では，生体力学的な観点より，臨床動作法の2 者間の力のやりとりにおける協調性·主従関係を明確化することで，トレーナー(援助者)のスキルの定量評価を行うことを目的とする．すなわち，トレーナーがトレーニーに動作法を施している際の力や加速度，傾斜角度などの物理量や，表面筋電位などの生体信号を計測し，力学的な観点よりデータ間の因果関係を分析するとともに，多変量解析などの統計的な手法により，動作法のスキルのレベルを特徴づける指標を検討する．