視線操作による周辺視の度合いがラバーハンド錯覚に及ぼす影響

摘要

衝立などで隠された手と目の前に置かれたゴム製の手が絵筆などで同時に刺激されると，ゴム手上で触刺激を感じ始め，あたかも自分の手のように知覚するようになる．この現象はラバーハンド錯覚(rubber hand illusion: RHI)と呼ばれ，心理学·認知神経科学研究において身体所有感(sense of ownership)や運動主体感(sense of agency)，身体的自己意識(bodily self-consciousness)を講論する上で，フルボディ錯覚や身体交換錯覚などとともに重要な現象の1つとなっている．RHIを引き起こす場合，ゴム手を凝視するよう研究参加者に指示することが一般的である．そのため，強いRHIの誘発にはゴム手が研究参加者の手と視覚的に類似している方が良いとされてきた．これに対して先行研究では，木製の手を用いて一般的なRHI実験の条件（直視&同期/非同期刺激）に，ターゲットを木製の手から離れた位置に提示し，研究参加者にターゲットを凝視させる条件，すなわち周辺視条件（周辺視&同期刺激）を加えてRHI実験を行った．この結果，用いた木製の手が研究参加者の手と視覚的に類似していないにも関わらず，周辺視条件において有意に強い錯覚が誘発されることを確認し，周辺視によるフェイクハンドの曖昧化による影響を示唆した．