進行方向知覚を強化するガイド提示と身体所有感の関係

摘要

一般的にドライバは，自車の軌道を頭の中で思い描いて，その軌道に沿って走行しようとしており，これを実現できているとき，思い通りの制御を実感し，ドライビングプレジャーなどのポジティブな感情に繋がるとされている．人間が進みたい方向へ進むためには精度の高い進行方向知覚が必要であるが，自動車運転の場合，進行の主軸となる自車の正中線に対して，ドライバが左右のいずれかに偏って位置するため，歩行時などに比べて進行方向知覚を得ることが難しくなる．著者らは，進行方向知覚におけるこの構造上の難点を，ドライバが自車との一体感を獲得することで克服する可能性について着目し，動物やヒトが自身と接触する物体（道具や装具）に対し，それが自身の身体にあたかも属しているような感覚を持つ「身体所有感」の概念に着想を得て研究の緒に着いた．身体所有感を強化する要素については種々のものが知られているが，視覚的要素として視点の違いが挙げられており，特に，三人称の視点（客観視点）よりも一人称の視点（主観視点）であることが有効とされている．そこで，著者らは先行研究にて，ドライバの眼を起点とした主観視点に基づく視覚的支援（ガイド）を提案し，ガイドがない場合や車体を基準とした客観視点に基づくガイドを用いた場合との比較実験を通して，アイポイントが進行方向に安定することや車線からのずれやふらつきが低減されることを明らかにしている．