内視鏡下血流センシングのための長ストローク熱駆動マイクロレンズMEMSスキャナーの開発

摘要

近年，共焦点顕微鏡·光OCT·多光子顕微鏡といった病変部位の非侵襲in vivo診断を可能にする光測定装置の開発が進hでいる．それらベンチトップ装置のバルク光機械素子を光MEMS（Micro Electro Mechanical Systems）へと小型化することは，内視鏡光バイオプシー（内視鏡光生検）への応用に大きく寄与する．内視鏡光バイオプシーとは，内視鏡下にて消化器系疾患部位の病理診断を行う光学的測定技術である．これまでに著者らは，内視鏡下の測定系において，血管中を移動する赤血球からの光ドップラー信号を高感度に検知する測定システムを開発した．光学定盤上などに測定対象が固定·拘束されたベンチトップ系と比較して，体内内視鏡下は，測定対象である胃腸粘膜が数ミリ程度の臓器収縮モーション（心臓の鼓動·呼吸運動·ぜh動運動といった生体運動）によって時間的に変位する系である．光干渉を原理とする従来の光学的測定手法は，ミリスケールのモーションに対して感度を有するために，内視鏡下においては臓器収縮モーション由来のノイズ（アーチファクト）によって定量性が著しく低下する．これまでに表層に存在する太い血管模様をカメラ画像を用いて強調表示する手法によって内視鏡下血流センシングの有用性が示されているが，定性的な血管構造観察に留まっている．提案システムは，モーションに対してフォーカストラッキングすることでアーチファクトフリーな血流ドップラー信号を検知する．しかし，フォーカストラッキングを内視鏡に実装するためのマイクロレンズアアクチュエータは臓器運動の変位に追従可能な長ストローク·内視鏡先端部に搭載可能な小型サイズ·生体内測定に安全な低電力駆動といった従来小型アクチュエータにはない革新的な機能が求められる．本報では，熱膨張率が異なる2層ナノ薄膜を通電加熱した際の熱膨張率差による曲げを駆動原理として，ナノ薄膜特有の熱物性値（線膨張率·熱伝導率など）から材料を探索したバイマテリアルデバイスである切り紙型熱駆動式MEMSスキャナーを提案する．提案スキャナーは切り紙状にエッチングされた低熱膨張率自立薄膜上に高熱膨張率薄膜がパターンされた熱バイモルフ構造を有する．通電加熱時の熱膨張率差によって薄膜上に高密度に配置されたバイモルフエリアが垂直方向に変位することで長ストロークを得る．本報では，デバイス設計，バイモルフ部の残留応力を制御した作製方法ならびに駆動評価について報告する．