武術における立位法の実験的検討－身体バランスに与える影響と接触相手との関係の断ち切り

摘要

武術においては，自分自身の身体操作に加えて相手の意図の検出や自分の意図の隠匿など相手との情報戦もまた重要である．本研究では，「相手との関係性を絶っ」効果があると考えられている「垂直離陸」と呼ばれる立位法をとりあげ，この立位法をとったときの身体動揺特性と筋活動を，単体での静止立位および相手と接触した状態での静止立位においてそれぞれ解析した．また，"light touch effect”と呼ばれる身体動揺抑制効果に着目し，「垂直離陸」がこの効果に与える影響も検討した．その結果，垂直離陸時には，①下肢関節周りの拮抗対筋が同時収縮すること，②接触相手との身体動揺の相関が小さくなること，③light touch effectが通常立位と同様に生じることが明らかになった．これらの結果は，垂直離陸がもたらす「関係性の断絶」は二者一体となってバランスを維持する制御構造の解消をもたらすものであって，他者との接点から得られる感覚情報の遮断を意味するわけでないことを示唆している．