情動に関する具体的な心的状態語は子どもの情動知覚に影響を与えるのか？

摘要

養育者の物語課題を用いて具体的な心的状態語（concrete mental state language：cMSL）を調べた様々な先行研究は、情動に関するcMSL（cMSL about emotion：cMSLe）が情動理解と援助行動などの子どもの向社会的行動と関係があるということを明らかにした。しかし、cMSLeが子どもの情動知覚に直接的な影響を与えるのか、またcMSLeのどの要素がその影響に寄与するのかに関してはまだ知られていない。一般に、cMSLeは、簡単なMSL（simple MSLe：sMSLe）に比べ、因果性が高く、言語の量も多い。本研究は、因果性と言語量を操作して作成した三種類のMSLe（高因果性／多言語量：cMSLe；低因果性／多言語量：瞹昧なMSLe；低因果性／少言語量：sMSLe）を子どもに呈示し、cMSLeのどのような要素が子どもの情動知覚に影響を与えるのかを聴覚的プライミング課題を用いて実験的に検討した。聴覚的プライミング課題は、三種類のMSLeの中で一つがプライミング刺激として聴覚的に呈示された後、顔の表情写真（嬉しい／悲しい）がモニターに呈示されるという課題であり、参加児はボタンを押して表情の情動を判断する。5才児41人が実験に参加し、反応速度と正答率が分析された。その結果、cMSLeの後に呈示された情動写真に対する正答率は、プライミング刺激とターゲット刺激の情動が不一致の条件で、有意に低下した。一方、sMSLeと瞹昧なMSLeは、子どもの情動知覚に有意な影響を与えなかった。以上の結果から、MSLeの具体性は、子どもの情動知覚に直接的な影響を与えると考えられる。また、情動に関する具体的な心的状態語の言語量ではなく、因果性の強さがこの影響に寄与すると考えられる。本研究は、情動に関する具体的な心的状態語が子どもの情動知覚に与える直接的な影響を初めて実験的に確認した研究として価値がある。