出芽酵母におけるリボソームタンパク質遺伝子の新規転写開始制御機構

摘要

リボソームは生物のタンパク質合成を担う巨大複合体であり，その構造と機能に関する研究に対し2009年のノーべル化学賞が与えられたことは記憶に新しい． 真核生物のリボソームは4種類のリボソームRNA ( rRNA）と79 種類（出芽酵母の場合）のリボソームタンパク質(RP; ribosomalprotein）から構成され，その合成は核内に存在する3 種類全てのRNAポリメラーゼ（Pol I, Pol II , Pol ;III ) ガ関わる唯一の細胞内ィべントである（Pol Iが35S rRNA,PolIIがRPのmRNA, Pol IIIが5S rRNAをそれぞれ転写する）． 活発に増殖する酵母細胞においては，全転写反応の約60％ がrRNAの転写に，全mRNA転写の約50％ がRPの mRNA轉写に費やされるなど，リボソームの合成には膨大な細胞資源を必要とする1）． そのため生物は，細胞内外の環境に応じて三つの転写系を速やか，かつ協調的にon/offすることで，無駄のないリボソーム合成を行っている． 近年，リボソームの合成が，細胞のサィズや分裂のタイミングの決定，転写や複製，mRNAの局在など，様々な細胞機能と密接に関与することが明らかになりつつある． そのため，リボソーム合成制御の正しい理解は，転写や翻訳のみならず幅広い研究領域に重要な知見をもたらすと考えられる． 各転写系の制御機構については，それぞれが独立に大きなテーマであるため，本稿ではPdIIによるRP遺伝子の転写制御に絞り，主に著者らが独自に見いだしたHmol (High mobility group protein 1 ）タンノク質によるRP遺伝子の新規な転写開始点決定機構について述べる．