中性子散乱·光散乱による高分子水溶液·ゲルの圧力誘起相分離と疎水性相互作用の研究

摘要

小角中性子散乱および光散乱による疎水性高分子溶液·ゲルの相挙動の圧力·温度依存性の研究について，最近の研究成果を述べた。 (1)一般的に(P,T)座標上で上に凸の形をもつ再帰的な相図となること，(2)ゲルでは架橋不均一性に由来する凍結した揺らぎが存在すること，(3)弱荷電性感熱ハイドロゲルでは，LCST以上にてミクロ相分離構造が発現し，SANS領域に散乱極大が現れること，またそのピークは圧力上昇により消滅·再出現すること，(4)ブロック共重合体水溶液の研究から，圧力効果と温度効果は異なり，圧力効果は疎水性相互作用を弱める方向に働くこと，(5)負の混合体積変化と水の構造化という正の体積変化を採り入れた，「石と砂の混合モデル」により凸型相図の説明が出来ること，などの成果が得られた。 疎水性分子の水への溶解性，水系における相分離に圧力は大きな役割をなし，それは水の構造化とそれぞれの成分の圧縮率の圧力依存性に密接に関係していることがわかる。 このように，疎水性相互作用（あるいは疎水性水和）を考えるとき，混合の体積変化と溶質·溶媒の圧縮率の静水圧依存性を十分考える必要がある。 これらの成果はタンパク質のfolding，熱·冷変性，圧力変性などの分子論的解明に大きな指針を与えるものと期待する。