アジアにおける食料安全保障の進展と小麦の役割

摘要

アジアの米生産地域において最も重要な食料は米である．しかし，近年この地域での小麦の食料安全保障上の重要性が極めて大きなものになりつつある．例えば，中国とインドを除くこの地域の途上国では，小麦輸入は過去30年間で年率4．53％と驚異的な伸び率で増大している．そこで本稿では，アジアの米生産国を対象として，米との比較において小麦という財の特性を食料安全保障の観点から描き出すことを目的とする．そのため，主に国民1人当たりのカロリー供給量という指標を用いて国際比較を行い，以下の3点について検討する．第一に，途上国は国内生産が不振な際に必ずしも自由に穀物を輸入できるわけではない．最も大きな制約は外貨不足である．そのため，外貨不足と食料援助，食料援助における米麦の位置付けを明らかにする．第二に，この地域は緑の革命の恩恵を受けた国々が多い．そこで，米と小麦について生産と輸入が1人あたり摂取カロリーの増大にどの程度貢献したかを寄与率を用いて検討する．第三に，主要な食料輸入国に限定して，最も主要なカロリー供給源である米の国内生産が減少した場合に，輸入が果たす役割を米と小麦について検討する．以上の食料入手可能性について検討したうえで，第四に，食料安全保障上最も脆弱な南アジアの2カ国，バングラデイシュとスリランカを事例として，食料安全保障上の米麦の位置付けと限界を検討する．