ゥマにおけるクロスモーダルなヒ卜の感情認知 一ゥマはヒトの感情を篛みとる際にその表情と音声を関連づけるか？一

摘要

古くからヒトは様々な動物を家畜化してきた。特に、ィヌゃゥマは伴侶動物としてもヒトと密接な関 係を築いてきた。近年では、ゥマはスポーツや使役のみならずセラピーアニマルとしても活躍してお り、それに関わる人の安全や調教への応用'ゥマの福祉の向上のためにゥマの認知に関する知見が必要 とされている。これまでの研究から、ゥマの対人認知については、親しい人を見た目（視覚的刺激）と音 声(聴覚刺激）の情報を組み合わせてクロスモーダルに認識することや、ヒ卜の笑顔よりも怒り顔に対 して身構えることがわかってきている。これらの知見から、ゥマはヒトが表出した感情も視覚と聴覚を 組み合わせてクロスモーダルに認知している可能性が考えられるが、これまで検討は行われていな かった。そこで本研究では、ゥマが視覚と聴覚を用いてクロスモーダルにヒ卜の感情の認知を行うこと ができるかを、期待違反法を用いて実験的に検討した。もし、クロスモーダルな感情認知が可能であれ ば、表情(視覚刺激）と音声(聴覚刺激)で異なる感情価の刺激を呈示した際に、期待違反が生じ、その違 和感が行動.生理指標に反映されると予測した。また、親しい人の識別がクロスモーダルに可能である という先行研究の結果に加え、ゥマは親しい人とは感情を含hだコミュニケーションを直接豊富に とっているため、親しい人の表情と声の組み合わせを学習していると考えられる。したがって、その組 み合わせの連合が強く生じているので、普段よく接している親しい人(馬術部のゥマの担当者）に対し て期待違反がより大きく生じると予測した。実験では、ゥマに対し、そのゥマの飼育'調教担当者または未知者の表情(笑顔または怒り顔)をゥマの前に置いたスクリーンに30秒間呈示した。表情の呈示終了 から15秒後に、スクリーンの前にあるスピーカーから、表情と同じ感情価(一致条件）または異なる感情 価(不一致条件）の音声(参加個体のゥマの名前を3回呼ぶ、褒めるトーンの声と叱るトーンの声）を再生 した。その結果、スピーカーの方を注視した時間は、担当者条件でのみ、一致条件でよりも不一致条件で 有意に長くなった。また、スピーカーの方を注視するまでの反応時間は、親密性に関わらず、一致条件よ りも不一致条件において有意に短かった。つまり、ゥマは表情と音声の感情価が異なるときに、より素 早く反応した。本研究の結果は、ゥマが親密な担当者だけではなく未知者に対してもヒトが表出した感 情の認知を表情と声を開連づけてクロスモーダルに行うことを示唆している。