運動学習における記憶と忘却-時間スケールの異なる運動記憶

摘要

人間の運動学習における記憶と忘却の時間パターンを調べると，時間スケールの異なる 運動記憶が複数存在することがわかる。はじめに行動データから導出される感覚運動 学習記憶の計算モデルを紹介する。次に，計算モデルに基づく脳活動解析について説 明する。その結果は，学習に関わる脳部位ごとに記憶の時間スケールは異なり，1つの 課題を学習するにも，複数の脳部位が時間とともに交代で関与しながら学習が進む過 程を明らかにした。試験前の一夜漬けのように早く学習したことはすぐ 忘れるが，自転車の乗り方のように時間をかけて練習 したことはずつと覚えている。運動の学習において， 「すぐに学習してすぐに忘れる」短期的な運動記憶と， 「学習は遅いが，いつまでも覚えている」長期的な運動 記憶が存在することは，従来言われていた。例えば， 1度学習した運動のやり方も，しばらく練習しないと忘れてしまうことがある。しかし，2回目に学習する ときは，1回目よりも早く学習できる。これは，短期 的な記憶が失われても，長期的な記憶が残っているか らと考えられている。