3D積層により作成したマルエージング鋼の回転曲げ疲労特性に及ぼすショットビーニングの影響

摘要

金属粉末を用いた3Dプリンタ技術は，従来の加工技術では製造することのできない一体物で複雑形状の機械構造部材の製造や，3次元CADデータから直ちにニアネットシェイプでの素形材の製造が可能であることから，様々な機械構造部材の製造方法として実用化されはじめた.なかでも本技術は，難加工材として知られるTi-6Al-4V合金を素材とする航空機構造部材や，生体インプラント部材の新たな製造方法として注目されている.機械構造部材へ3D積層材を適用するうえで欠かせないのが，疲労信頼性の把握である.注目されているTi-6Al-4V 合金製の3D積層材に関してはこれまでに数多くの疲労特性に関する報告があり，製造時に発生する初期欠陥によって疲労特性が決まると報告されている.初期欠陥寸法の縮小が疲労特性改善に直結することから，従来の鋳造アルミニウム合金や球状黒鈴鋳鉄材などに生じる引け巣の縮小技術である熱間等方加圧（HIP)処理に注目が集まり，その有効性が明らかとなりつつある.一方で，3D積層材同様に初期欠陥が疲労破壊起点となる鋳造材では，表面近傍の欠陥を縮小できるショットピーニング(SP)処理の有効性が古くから知られている.SP処理はHIP処理よりも低コストであり，素材の表面近傍の欠陥を縮小するだけでなく圧縮残留応力も付与できることから,曲げ負荷を受けるような部材に対しては非常に有用な処理である.しかし，多くの研究が進められているTi-6Al-4V 合金に対しては，素材の強度が高いためにSP処理を施しても顕著な欠陥縮小効果が望めないことと，切欠き感受性が高いためにSP処理による表面粗さの増加によって疲労特性低下が懸念されることから，SP処理の適用には消極的である.そのため，Ti合金以外の3D積層材に関しても，疲労特性改善手法としてSP処理が適用された例はみあたらない.