動物プランクトンの分子生物学的研究成果の環境修復への展開

摘要

シオミズツボワムシ（以下，ワムシ）（図1）は，世界中の汽水域に広く生息し，食物連鎖の根底を支えている重要な動物プランクトンで，14種以上からなる複合種である。ワムシは培養が容易であり，環境毒性学，水生生態学や進化生態学などの分野で実験動物として用いられている。水産分野では，ワムシが単性生殖によって短期間で大きな個体群を形成することや，その大きさ（150?300μm）や遊泳パタンが仔魚にとって摂餌しやすいものであることから，海産魚の初期餌料として世界中で汎用されている。ワムシは単性生殖と減数分裂を伴う両性生殖の2つの生殖様式をもち（図2），雌はそれぞれアミクティク雌（amictic female），ミクティク雌（mictic female）とよばれる。アミクティク雌は個体群増殖を引き起こす。ミクティク雌は，アミクティク雌より産出され，減数分裂を行って半数体の雄ワムシを産出し，この雄ワムシと若いミクティク雌が交尾することで耐久卵を形成する。この2つの生殖様式の発現は環境に左右され，この環境に応答する遺伝子群によりコントロールされている。この遺伝子群を得るため，ワムシのcDNAライブラリーを作成.解析し，約11,000のExpressed Sequence Tags (EST)データベースを構築した。われわれの研究では，このデータベースをもとに，検討対象となる水域の海水で培養したワムシの遺伝子応答の網羅的解析に応用し，生物にとっての海洋の汚染度や回復度を定量化することによって，海の健康診断法へと展開しようとしている。ここでは，これまでに論文として発表してきた研究成果をとりまとめて紹介する。