溶液を反応場とするプロセス制御と材料創製：水溶液中における鉄酸化物の形成

摘要

金属鉄が水溶液に接触すると多かれ少なかれ溶解（腐食）し，固相の鉄腐食生成物（鉄さび）が形成する．これらの鉄さびには水酸化鉄，オキシ水酸化鉄，酸化鉄など（これらを総称して鉄酸化物と呼ぶことにする）がある．これらの鉄酸化物の種類や構造は，金属鉄（合金元素や不純物元素含有）や環境に由来する水溶液中のカチオンやアニオンの種類や量，大気中酸素，pHなどの条件によって左右される．基本的に鉄さびを構成する鉄，酸素および水素の源は，金属鉄，水，気相酸素であり，一般に次のような反応が起こっているものと考えられている．Fe→Fe{sup}(2+)+2e{sup}-（アノード反応）……（1）；H{sub}2O+1/2O{sub}2+2e{sup}-→2OH{sup}-（カソード反応）……（2）；これらの反応で形成したFe{sup}(2+)(Fe{sup}(II))やOH{sup}-から鉄さびが形成する過程は，水溶液中での析出（沈殿）現象であり，多くの複雑な現象が含まれている．たとえば，鉄さび中のFeは主に三価になっており，時々その中に一部二価が含まれている．このため，鉄さびの形成機構を明らかにする上で，水溶液中に溶解した二価の鉄イオンから三価主体の固相の鉄さびになる過程を明らかにすることが重要になる．本稿では，これらの鉄さびに関連して，水の性質や水溶液中の元素のカチオンやアニオンの挙動などに関する研究に振り返り，これらをもとに鉄酸化物の形成機構について検討してみたい．それとともに，実際の水溶液で形成する鉄酸化物の種類（鉄さび成分）について調べた結果を紹介する．