大網転移をきたした肝細胞癌の1例

摘要

肝細胞癌が腹膜や大網に播種性転移を生じることは比較的稀であり，報告例も少ない．われわれは既往治療の経皮的エタノール注入療法（以下，PEI）に起因した播種性転移と思われる，大網転移をきたした肝細胞癌の1例を経験したので，文献的考察を加えて報告する．患者：67歳，男性主訴：なし家族歴：特記すべきことはない既往歴：45歳時，外傷のため輸血を受けた．現病歴：1992年から肝細胞癌のため，近医で経カテーテル的肺動脈塞栓術（以下，TAE）を受けていた．1995年8月に肝後区域の多発性腫瘍および門脈腫瘍栓が出現したため，沼津市立病院内科に転院し，TAEとPEI，放射線の併用療法を受けた．1996年2月に尾状葉および内側区域の腫瘍に対して再度PEIを受けた．1997年1月に再び両葉の多発性病変が出現し，TAE，PEI不可能となったため，当科に紹介され，手術目的で同年1月30日入院となった．