『水田生態工学入門一農村の生きものを大切にする』

摘要

タイトルから解るよう，これは水田に関わる生態工学の入門書である。生態工学（ecological engineering）とは，1992年創刊の国際生態工学会誌に定義されるよう「人間と自然の相互利益のために生態系をデザインする工学」である。 その基本的な考えは，既に1960年代に生態学者E．P．Odumが「自然からよりも小さな人間によるエネルギーの供給で，しかし結果として起こるパターンとプロセスにより十分な大きさの効果を得ること」と提案している（h：Proceed．Lockwood Conference on the Suburban Forest and Ecology，Bull．652Conn．Agr．Stat．，Storrs，CT，pp．57－75，1962）。 この指摘は，生態工学における生態系デザインで不可欠となる条項“自己組織化（self－Organizing）”という発想の正鵠を射ていると考えられる。 今日，生態工学はさまざまな場所、規模、内容で適用されるが，個別の生態系の修復、創出のみならず，生態系マネジメントもその主題に加わってきている。 折しも地球規模での生物多様性の危機感が強まる中，我が国の農的な二次的自然の代表格でもある永田を対象とし，その生態工学的な視点と処方の入門書として本書が世に出されたことは，農村計画に関わる者にとって喜ばしい知らせである。