ロタウィルス遺伝子操作系の開発とそれを用いた外殻スパイク蛋白質VP4の解析

摘要

ロタウィルスは，冬季乳幼児嘔吐下痢症の病因ウィルスである.ロタウィルス胃腸炎により，開発途上国を中心に毎年約45万人の乳幼児が死亡している.先進国においても，ほぼすベての乳幼児が 感染し，発症する.これまでに，多くのRNAウィルスにおいて遺伝子操作系（リバースジエネティ クス系）が開発され，ウィルスゲノムを任意に改変することでウィルス増殖過程や病原性に関する多 くの重要な知見が得られてきた.しかしながら，11本もの多分節2本鎖RNAをゲノムとする口タウ ィルスでは，過去10余年もの間，精力的な開発の試みが行われたにもかかわらず，如何なる成功も 報告されていなかった.我々は，ロタウィルス増殖過程および病原性発現機構の研究を分子レベルで 展開させることを目的として，ロタウィルスにおけるリバ一スジエネティクス系の開発を行ってきた. 2006年にヘルパーウィルスを用いた系ではあるが，cDNAに由来するゲノム分節を有する組換え口 夕ウィルスを作製することを可能にするリバースジエネティクス系の開発に世界に先駆けて成功し た.このシステムを外殻スパイク蛋白質VP4に応用することで，異なる血清型由来の交差反応性中 和ェピトープをキメラに発現する組換えロタウィルスおよび，ロタウィルス感染性の獲得に重要な役 割を果たすVP4上のトリプシン切断領域にフューリン様プロテアーゼ認識配列を導入した組換え口 夕ウィルスの作製にも成功している.本稿では，これらロタウィルスにおけるリバースジエネテイク ス系の開発とその応用例，そして今後の展望を紹介したい.