メタポリックシンドローム－肥満、脂肪細胞からみた病態と治療－

摘要

我が国を含む先進国や多くの発展途上国で，心筋梗塞や狭心症等の冠動脈疾患の発症が増加している。 この背景には，生活習慣が短い間に大きく変動していることがあげられる。いわゆる食生活の欧米化や車社会に代表されるような生活習慣の変化にともなう我々の日常生活が，多くの発展地域の疾病構造を栄養不足に基づく病態から過栄養に基づく病態へと様変わりさせようとしている。代表的な病態として，過栄養に基づく代謝異常の発症と，それに基づく動脈硬化症の進展がある。 動脈硬化性疾患に関わる医療を考える場合に，すでに完成してしまった疾病に対する医療を充実するとともに，多くの人々を対象にした，発症に至る前にどのように有効に予防できるかを考える予防的な臨床医学を確立することが重要である。 そのために，それぞれ異なった地域の生活習慣に合わせた，エビデンスに基づく実践的な臨床医学が求められる。 動脈硬化のリスクファクターに関わる多くの研究から，糖尿病，高血圧，高コレステロール血症などの代謝異常に基づく病態が冠動脈疾患や脳血管障害と密接に結びつくことは明らかである。 近年，動脈硬化を進展させる病態として新たな疾患概念が提唱され，メタポリックシンドロームとして認識されるようになった。 広範な領域に関わる新たな疾患概念，メタポリックシンドロームについて，肥満，脂肪細胞からみた病態の捉え方，治療の考え方について臨床医学的見地から述べてみたい。