黄ば白にまさる －カイコの繭の色から

摘要

メンデルの遺伝法則の再発見の年といわれている1900年，ド、フリース，コレンス，チエルマックはそれぞれ独自に遺伝の研究を行い，優性の法則，独立の法則，分離の法則等の遺伝法則を発見した。 この発見によって，メンデルの法則が遺伝の基本法則として日の目を見たわけである。 同じ頃，日本でも遺伝の法則について研究を行っていた研究者がいた。 東京大学農学部，外山亀太郎博士は黄色い繭（黄繭）と白色の繭（白繭）を作るカイコの系統をもちいて，遺伝の法則を調べていた。 外山博士は，黄繭を作る遺伝子は白繭に対して優性であることを示し，日本においてもメンデルの法則をいち早く確認した。 また黄繭を作る系統は血液も黄色く，白繭を作る系統の血液は無色であることから，黄色い血液を作る遺伝子を黄血道伝子（Yellow Blood，Y），無色透明の血液を作る対立遺伝子は劣性で，白血遺伝子（＋~Y）とした。 噂が移って現在，遺伝子はDNAにコードされていることがわかり，分子生物学的手法を用いて遺伝子の解析を行うのが主流になっている。約100年前に外山博士によって記載されていた黄繭や白繭を作る遺伝子の分子実体がなんなのか，また，なぜ黄繭が優性で白繭が劣性になるのか，その答えはわかっていなかった。