イヌの繁殖に関わるニューテクノロジーの開発と研究課題

摘要

近年，あらゆる動物種において，卵子の体外操作技術やバイオテクノロジー技術は飛躍的な進歩を遂げてきた。 家畜や実験動物を中心として，人工授精や受精卵移植，卵子の体外操作（体外成熟，受精，培養）などの技術が開発されている。 現在では，体細胞クローンや雌雄産み分け，親子鑑定なとニューテクノロジ一分野の発展も目覚しい。 これらの技術は，絶滅危憤種の救済や有用な形質を持つ動物の作出なと，多方面への応用に役立つ。イヌにおいても，これらの技術開発が進められてぉり，卵子の体外操作や凍結保存，胚移植，クロ．ーン動物作出なとの技術の確立が望まれている。 しかし，イヌの性周期は6～12ヶ月周期の単発惰性で，多くの系統でその季節性は不規則であるため，実験材料の卵子を一大量かつ継続的に得ることは難しく，イヌ研究の発展を妨げている。 これまでに，イヌ卵子の体外での成熟培養や受精，発生培養は成功してきたが非常に低い率である。 理由として，イヌと他動物種の生殖生理学的特徴の相違，卵管内環境から卵成熟，受精，初期発生などに関する詳細な情報の欠如が挙げられる。イヌの排卵はLHサージの1～2日後であるが，他の哺乳動物と異なり卵子が第一減数分裂期の未成熟な段階で起こる。その直後に卵核胞崩壊（GVBD）が起こり，卵管内で卵成熟していくという特有の性質をもつ。 このようなイヌ特有の生殖生理も，卵子の体外操作技術を困難にしている一因であろう。 また，イヌはヒトの伴侶動物として社会で特別な地位を占めているため，倫理的問題から，実験材料として利用することを制限され，この種における研究が妨げられてきた。