試験管内人工生合成系による新規生物活性分子の創製

摘要

生物が行う物質生産反応システム，いわゆる『生合成系』は，特定 の化合物を精密·簡便·大量に合成できるため，古くから有用化合物 の生産に利用されてきた。しかしながら生合成系には，一般に限られ た基質しか利用できない·特定の構造をもつ生成物しか合成できをい といった制限も存在する。それゆえ，人工の化学構造をもつ化合物を 生産したり，多種多様な化合物（つまり化合物ライブラリー）を合成 して新たな機能性分子を探索したりといった目的に利用するには，技 術的な困難を伴うのが現状である。こういった背景から，生合成系を 用いた既存戦略では，天然に存在する反応系を活用し，天然に存在す る化合物やその構造類縁体を作るということが主流であった。一方で 後藤佑樹氏は，生合成系に適切な人工改変を施すことで上記した生合 成系の制限を軽減し，より多彩な化合物の生産に応用可能な『人工生 合成系』を開発した。さらに，この人工生合成系を活用することで，有用な人工化合物の創製にも成功した。以下に同氏の主な業績を紹介する。