粘弾性流体の弾性不安定

摘要

高分子や紐状に会合するミセルを形成する界面活性剤を含む溶液は，低濃度であっても粘弾性流体となり，複雑な流動挙動を示すため複雑流体と呼ばれている.同一の溶液が，観察するスケールや，応力に依存し，流動挙動を変化させる.例えば分子量が数百万オーダーの高分子0.001wt % (10ppm)水溶液は，マクロスケールでは乱流を抑制し流動抵抗を低減させる.一方，この水溶液をマイクロ流路に流すと，溶液の弾性に起因する非常に不安定な流動挙動を示し得る.この弾性に起因する不安定現象は弾性不安定と呼ばれ，インクジェットプリンタ，3Dプリンタ，紡糸，Lab on a chip技術など，様々な射出挙動に関連している.弾性不安定に関する研究は，マイクロスケールの流路の加工技術の出現，発達とともに，20年程度の間に様々な研究が行われ，注目を集めている.本稿では，弾性不安定に着目し，著者が特に興味を持った近年の研究について紹介·解説する.