第九回明日に向かってスベれ！細胞運動獲得モデル：アピコンプレクサ類生物

摘要

単細胞，多細胞，真核生物。原核生物……細胞の種を問わず。多くの細胞が運動能力を持っている.そしてそれらの運動の多くが，鞭毛，繊毛，仮足，または足などの，派手でわかりやすい運動器官に.依存している力S中には一見そのような分子機械に依存していないように見える生き物たちがいる.今回ポクらが取り上げるアピコンプレクサ類に属する生物たちはその中の一例である.マラリア原虫やトキソプラズマ1〗をはじめとするアピコンプレクサ類の運動様式は「滑走（glidingmotility)」と呼ばれる.その名の通り，スライドガラスや細胞上を滑るようにして移動する.多くの研究者たちがこの不思議な運動様式に魅せられ，その分子機構をかなりのところまで明らかにしてきた2>.その詳細は図1に示すとおりであるが，要はポクらの筋肉運動と同じく，ATPを加水分解したミオシンの構造変化に伴うアクチン上の滑り反応の応用型である.違いはアピコンプレクサ類のアクチンにはアダプター分子であるアルドラーゼを介して付着分子が結合していることである.この付着分子は原虫の細胞膜を越えて，宿主細胞表面の受容体に直接結合している.したがってミオシンのATP加水分解に伴う滑り反応は，結合相手のアクチンを動かすのではなく，アクチンが付着分子を介して宿主細胞受容体に固定されているために原虫本体が滑るのである.その様子は「先が水の抵抗により固定されているオールをこぐと，オールが動くのではなくボートが水面を滑る」様子をイメージしていただくとわかりやすいのではないだろうか.