僧帽筋上の鍼刺激部位の違いが肩部循環に与える影響

摘要

【目的】僧帽筋上の下肩中兪穴（肩中兪穴の下方、第1肋骨と第2肋骨の間で、深部に肺 が存在する部位）と天柱穴へ刺激し、鍼刺激部位の違いが肩部のヘモグロビン濃度に与 える影響について検討した。【方法】対象は健常成人44名とし、下肩中兪穴群22名と天柱穴群22名に分けた。鍼刺激 は右下肩中兪穴または右天柱穴に、3分間雀啄刺激（1Hz）を行った。測定は近赤外線分 光装置を用い、プローブを右肩部に貼付した。被験者は腹臥位にて5分間安静にさせた 後、3分間鍼刺激を行い、刺激終了後10分間安静にさせた。統計は群内比較においては Dunnett検定を、各時点での群間比較においてはMann-Whitney検定を用いた。なお、 本研究は森ノ宮医療大学研究倫理審査部会の承認を得て行われた。【結果】下肩中兪穴群のOxy-Hb、 Total-Hbの変動においては、刺激前と比べ刺激直後、 刺激後5分、刺激後10分に有意な増加（Pく0.01）を認めた。また、天柱穴群のTotal-Hbの 変動においては、刺激後5分、刺激後10分においては有意な増加（Pく0.01）を認めた。 Total-Hbにおいても刺激後5分、刺激後10分において有意な増加（P<0.05）を認めた。群 間比較においては、Oxy-Hb、 Total-Hbともにいずれの時点においても有意差は認めら れなかった。【考察と結論】下肩中兪穴群、天柱穴群ともにOxy-Hb、 Total-Hbの上昇が認められ、2 群間の差は無いことから、同程度の血管拡張作用を有することが認められた。このこと から、下肩中兪穴のように深部に肺がある経穴に鍼刺激を行わなくても、天柱穴のよう な頸部への鍼刺激により肩部の血液量増加が期待できることが示唆された。このことは 臨床家にとって気胸を発生させるという危険性が減少すること、患者にとっては安心し て施術を受けられることにつながるものと考えられる。