待つ人がいるということ

摘要

金銭への執着から，妻のことも息子のことも自分の財産をかすめとつた泥棒だと言つ て暴力をふるうようになった。妻は家を出ていき，息子と娘は家に寄りつかなくなつ た。彼はひとり家に残っていた。「物盗られ妄想」と呼ばれ，認知症で比較的高頻度 で認められる妄想である。「お金を盗られた」と言う力実際には，老いとともに不 可侵であったはずの固有の領域が侵犯される，その実際の喪失に先立つ不安が表面 的に「お金」というわかりやすく即物的な，そしてもしかしたら取り返せるかもし れない形をとるに過ぎないと感じる。