香りによって引き起こされる脳機能変化の計測

摘要

香りは，我々の日常生活の中で様々の重要な役割を果たしている．古来から，香りはヒトの生理や精神に作用すると考えられ，香料が貴重なものとして扱われ，アロマテラピー（芳香治療）などが行われてきたのも歴史的な事実である．しかしながら，香りがヒトの生理作用や脳機能に及ぼす影響を科学的，客観的に研究されるようになってきたのは，実際にはごく最近のことである1〕．これまで，香り（匂い）の研究においては，香りの化学的な成分分析の研究や，動物の喚覚に対する研究はあったが，人間の嗅覚を直接研究することは内外でも殆ど行われていなかった．そこで我々は人間に近い大脳を持っている高等動物のサルに注目し，サルの生理学研究からヒトの脳へと研究を展開してきた．そして，ついに人間の脳に対する香りの効果を調べる手段として脳波を用いることに到達した．それ以来，香りと脳波の関係の研究を世界に先駆けて着手し，香りによるヒトの脳機能変化の研究，さらに最近では脳磁計（MEG）を用いた香りの客観的計測法の研究 ,へと研究を推進してきた．