トランス脂肪酸問題と加熱による食用油脂中のトランス脂肪酸生成

摘要

2006年，アメリカ合衆国で，加工食品に含まれるトランス脂肪酸量の表示が義務化されたのを契機として，トランス脂肪酸問題は，日本でもメディアによって取り上げられるようになってきた。 2007年6月に更新された内閣府食品安全委員会のトランス脂肪酸ファクトシートによると日本人のトランス脂肪酸の平均摂取量は，総エネルギー摂取量の0．3－0．6％と試算された。 この値は，国際機関等が勧告した「トランス脂肪酸摂取量は，1日当たりの総エネルギー量の1％未満」という範囲内にあり，トランス脂肪酸の摂取制限や表示義務化には至っていない。しかし，ファクトシートでも言及しているように，このトランス脂肪酸摂取量の試算値は，標準的な食生活をしている場合の平均値であり，個人差は考慮されていない。 栄養バランスの悪い食生活をしている場合には，トランス脂肪酸摂取量も，この平均的数値から逸脱する可能性もある。 本稿においては，日本人のトランス脂肪酸の摂取現状を踏まえながら，トランス脂肪酸問題について解説する。 特に，これまで情報の少なかった油脂加熱によるトランス脂肪酸生成については，従来の研究結果に加えて，最近得られた情報についても併せて報告する。