共生細菌のゲノムからみた深海化学合成共生機構と共生進化: 共生細菌はオルガネラのようにゲノムを縮小するのか？

摘要

硫化水素など還元的無機化食物が湧き出ている深海底の冷水湧出域や熱水噴出域には，体内に化学合成細菌を共生させている無脊椎動物群が驚くほどの密度で生息している（図1）．化学合成共生細菌は硫化水素のような還元的無機化合物を酸化することでエネルギーを獲得し，二酸化炭素を固定しバイオマスを生成している．深海底冷水湧出域や熱水噴出域では，陸上や浅海で光合成を行なう植物にかわり，共生者である化学合成細菌が一次生産者となっている．宿主動物のうちシロウリガイ類やハオリムシ類では，共生細菌を宿しているエラやトロフォソーム（栄養体とも呼ばれる袋状の共生特異的な組織）は驚くほど発達している．一方，口や消化管などの栄養分を摂取するための器官が退化しており，生育に必要な栄養分の大部分を独立栄養の共生細菌に依存し，共生細菌なくしては生育できないと考えられる．さらに，シロウリガイ共生細菌はエラ細胞内に共生し，卵を介して次世代に垂直的に伝達され，宿主と共生者は密接に関係しながら進化したと思われる．