ESRによる反応化学種の観測

摘要

化学は変化を追及する学問であり，その変化の真つ最中の様子を直接観測することは化学者の興味関心の中心の一つである。そのため，様々な分析手法が考えだされ，現在も休みなく開発は続いている。そのような機器分析手段の一つとして電子スピン共鳴分光（electron spin resonance, ESR)法がある。観測対象は不対電子を持つラジカル種や金属イオン，金属錯体など常磁性の物質である。この世に存在する数多くの物質の中で，常磁性の物質はごく 一部である。一方，このごく 一部の物質は反応活性種として化学反応の過程において中心的な役割を果たす際に一時的に存在したり，触媒活性や磁性など特殊な機能を発現するもとになつていたりして，その構造や電子状態をESRを用いて調べることは，化学の基礎として興味深い"?气主として測定条件の工夫によって，ESRで観測できる系は年々増加してきている。本稿では，化学反応の系中に存在する反応化学種をESRを用いてその場で観測する研究について紹介するとともに，その動向について概観する。