ヒ卜全タンパク質を網羅するための分析技術の現状と展望

摘要

2000年6月，ヒトゲノム解読終了がクリントンァメリカ合衆国大統領により宣言され，完全解読もその数年後に達成された。この計画の進行にあたってはキヤビラリーアレイ電気泳動法による解析高速化の寄与は大きく，分離分析科学のライフサイエンスにおける重要性を再認識させるものであった。さて，ゲノム解読終了後の「ポストゲノム」時代の最初のステップは，ヒトのDNAを構成する約32億対の塩基配列のうち，いったい遺伝子はどこにあり，それらがいつ，どこで，どのくらい，どのような形で発現するのかを明らかにすることである。しかしゲノムの最終産物は遺伝子ではなくタンパク質であり，また細胞機能を直接操っているのはタンパク質である。ゲノム規模でタンパク質を捉えるとき， それはプロテオームと呼ばれ，プロテオームを対象とした研究はプロテオミクスと呼ばれる。プロテオミクスは，細胞，組織内で発現する全タンパク質を対象とし， いつ（正常時，疾病時，胎児期，老化期など），どこで(細胞内もしくは生体内組織別局在)，どのくらい（絶対量，相対量)，どのような形で（活性型，複合体形成， 翻訳後修飾，プロセッシング，選択的スプライシング， 一アミノ酸変異等）存在しているのか，そしてどのような機能を果たしているのかを研究する学問である。そしてそのアウトプットは多くの疾病メカニズムの解明や薬剤標的?バイオマーカーの創出などにつながり，人類の健康福祉医療への直接的な貢献が期待されるため，大きな期待を集めている。