電子線トモグラフィの新たな挑戦：細胞内／溶液中における蛋白質1分子の三次元再構成をめざして

摘要

ヒト遺伝子の長大な塩基配列が決定され，ヒトゲノム計画もその使命の大半を終えた。 次の目標として，ゲノムの産物であり，現実の生体機能を担うさまざまな蛋白質の構造と機能に関する情報を網羅的に捉えようとするプロテオミクス計画が進行している。 技術の進歩により，多種類そして少量の蛋白質試料のアミノ酸一次配列を相当な速度で決定することは十分に可能となってきた。 しかし，それらの高次構造，そして機能ともなると，一挙に決定するための画期的な実験方法は未だ存在せず，一つひとつの蛋白質，あるいはその部分的な構造モチーフなどを選択し，適当な系で発現·精製して，従来の『構造生物学』の正統的手法であるⅩ線結晶回折と多次元NMR解析を用いて一つづつ構造を解いていく以外にはない。 それらはいずれも，原理からして空間的，時間的に高度に平均化された構造情報を与える方法であるが，結晶化が可能であるとか分子量がほどほどで高濃度でも凝集しないなど生物学的意義とは無関係の制限条件を満たす必要があり，興味深い試料を何でも解析できる訳ではない。 さらに，それらの方法では細胞内における各蛋白質の存在様式や他の構成成分との相互作用などに関する情報を得ることは困難である。