聴覚障害児の社会的認知能力の発達と関連要因の検討

摘要

幼児の社会的な認知能力の発達に関連する要因のひとつとして、他者の信念、欲求等の心的状態を推察して行動を予測する能力があげられ、心の理論（Theory of Mind ：ToM)と呼ばれている。典型発達児では概ね4歳までに他者の行為意図の理解が可能となり、その後に 誤信念課題で代表される表象的理解に至る。聴覚障害児では早期の療育開始により音声言語 を獲得した事例においても、他者の心的状態を推察して行動を予測する等の高次の表象的理 解が難しいと報告されており、統語産生力や語彙理解力等の発達の遅れも要因として指摘さ れている（藤野他,2012)。しかし、他者の行為意図理解と高次の表象的理解能力の発達の関 連性等、詳細については不明な点が多く、療育支援の資料として十分とはいえない。そこで、本研究では、主に音声言語を用いる児の幼児?学童期のToMの発達と関連する 要因について、基礎的資料を得ることを目的とした。