原発事故後の世の中の論調に対する社会学的視点からの分析－「囚人のジレンマ」からの脱却は可能か

摘要

これはまさに原子力をめぐる推進と反対の構図そのものではないか－。推進側は今の原発は充分に安全だと主張してきたが，反対派はそれを信じなかった。しかし実際には推進側も後から開発された技術などを適用すれば原発の安全性をさらに高められることを知っているのだが，コストの問題以上に，それを明らかにすると反対派は鬼の首を取ったように「今まで安全だと言っていたのは嘘だった，もう何もかも信用できない」と騒ぎ出して収拾がつかなくなることをと恐れ，「今のままでも充分に安全なのだから良いか」とばかりにロをつぐんでしまう。こうして推進側と反対派が相互に不信感をもって向き合って来た結果，より安全な原発に向けて改良することができない。『核論』ではこうした構図の中で事故が起きたり，犠牲者が出たりすることを懸念していた。不幸なその懸念は残念ながら的中し，福島原発事故という結果に至ってしまった。