起業への意欲と実現への道筋

摘要

一般に，理工学系の学生は，大学を巣立つと関連のメーカーに就職し，自らの専門家としての力を発揮してゆく。 しかしながら，近年，大学における知的資産の取扱いが大きく変化し，教員あるいは学生による発明を，大学が積極的に知的資産化する場合が増えてきている。 慶應義塾大学においても，知的資産センターが設立され，大学が保有する特許が飛躍的に増えている。 そのような変化を背景に，理工学系学生の中にも，起業に対する意識が変化してきており，チャンスがあれば，将来起業を考えたいと思う学生が増えてきている。 そのような学生の意識の変化に対応するために，アントレプレナー育成講座を2003年度から開講している。 この科目は，開講当初の2003年度は受講生が20名程度であったものが，2004年度からは200名を超えるようになり，現在に至っている。 本理工学研究科の修士1年生の学生数が700名程度あることを考えると，その約1／3強の学生が受講していることになる。 本講座は寄附講座として運営されており，講義には，大学数員だけでなく，実際に起業をおこなった経験者の体験談なども含まれる。 また，受講者がビジネスプランを考える演習的内容や，秋に開催される理工学部キャンパスでの学園祭（「矢上祭」）での出店を起業に見立てた実践的内容も含まれ，起業にかかわるさまざまな知識や仕組みが理解されるようになっている。 受講生の多くは，大学院修了後ただちに起業を目指しているわけではないが，企業経営の基本を理解できることに意義を見出すと同時に，将来に向けての準備ととらえているようである。他方，本講義を通して，起業の際には，理工学的な専門的知識だけでなく，財務，人事，マーケティングなど理解すべきことの広がりも理解することができ，その難しさも理解しているようである。