数学の道しるべ～研究者の道とは何か～

摘要

大学院の修士課程を出たのは，もうほぼ40年前になるが，1969年のことである．そのときから，プリンストンの高等研究所に一度は行ってみたいものだと思っていた.当時は就職状況が良くて，私も修士課程を修了すると同時に，東大理学部数学教室の助手に採用してもらい，意気揚々としていた"そのころ，プリンストンには加藤十善氏が滞在中であった．加藤氏は日本のトポロジ－の若手のホープで，私とは年が2つしか違わないのに，既に世界的に括躍していて，私も大きな影響を受けていた．加藤氏から毎週のように数学の便りが届いた…　 この頃共同研究していた「余次元2の手術理論」に関するものである．電子メールも何もない頃だったので，赤と青の縞模様で綾取りされた航空便の封書であった…薄い便箋に細いペン字でぎっしりと書かれた加藤さんの手紙に，研究所の充実した生活が偲ばれて，憧れを感じた…私もせっせと自分のアイデアを返事に書いた．