こんなことができる放射光（11）-構造生物学の近未来と放射光結晶学

摘要

構造生物学はその精密さを維持したまま，分子からより上位の階層の構造へ向かい，細胞構造からより精密な構造に向かってきている細胞構造生物学と合体して，新しい構造生物学の体系を構築する方向に進む．この新しい構造生物学は生物学の新しい動向であるシステム生物学と深い連携を築くことができ，生物学を一層飛躍させるものと期待できる．この中で，放射光結晶学はより複雑な構造を原子分解能で決定することによって，中心的役割を果たす，またERLやⅩFELによる新しい強力なⅩ線の可能性は長期的な視点で検討すべきである．一方，精密な構造解析はタンパク質場によって制御された化学という新しい学問に発展する必然性をもっている．このことによって生命現象を化学の言葉でより深く理解できるようになる．「より上位の階層の構造」と「より精密な構造」の両方向へ発展することが，近未来の構造生物学の中で放射光結晶学に期待されるところである．