自助式認知行動療法の併用により見えてきたありふれたうつ病症例に潜む大きな問題点

摘要

筆者らは自助式の認知行動療法を通常の診察に併用している。これまで約40例に 導入したが，本稿では3症例を提示し，その有用性と問題点を検討した。症例1は60代の 重症のうつ病患者で，入院加療を行い寛解に近い状態にまで改善したのちに自助式認知行 動療法を導入し，再発予防に貢献した順調な経過をたどった1例である。症例2は30代女 性のうつ病患者で，自助式認知行動療法の併用を行ったところ，非常に強t 、心理的な抵抗 がみられ，その抵抗を通して隠れていた問題点を見つけ出すことができた症例である。症 例3は40代女性のうつ病患者で，同様に導入時に強い心理的抵抗がみられたが，抵抗が比 較的小さな日常のストレスを繰り返し取り扱つていくうちに，小さな成功体験と自己コン トロール感の向上体験を重ねることができ，大きな改善が得られた症例である。認知行動 療法開始時には心理的抵抗がみられることは少なくないが，それは副次的なメリットにな りうる。つまり，その抵抗を扱うことが心理アセスメントになり，通常の診療では見逃さ れる可能性のある問題点を早く発見できるというメリツトは大きい。よい治療効果が得ら れたケースはいうまでもないが，副次的に治療上のメリットが得られたケースもあり，全 体として自助式認知行動療法の導入は試みる価値があるものと考えられる。