「非常時」の歴史的経験に学ぶ戦時下の食糧危機はいかにして起こったか

摘要

私たちが経験した直近の「非常時」である、戦時体制下の農業、食糧問題を見つめ直してみたい。 ところで、戦時下の農業、食糧問題といえば、多くの人は次のようなイメージを抱いているのではないかと思う。 ①日本は戦時体制突入とともに全力をあげて食糧増産にとりくんだ。 しかし、②労働力も農用資材も不足を来したため十分な成果をあげられず、生産の減退を余儀なくされた。 その結果、⑨食糧事情は年々悪化せざるをえなかった。 実は、このなかで正しいといえるのは、③のみである。 ①はまちがいであり、②自体は正しいが、これを③の理由にするのであればまちがいである。 ついでにいえば、「戦争末期には米が手に入らないのでやむなくイモばかりを食べていた」という「庶民の思い出」にも、解かねばならないいくつかの誤解がある。 驚くべきことに、私たちはみずからの穀会総体がさして遠くない時代に経験した農業、食程危機の実相すら把握していないのである。