食文化の地域ブランド形成過程におけるNPOの果たす役割に関する研究　　　　　　--NPO『なら食』研究会の取り組みを事例として--

摘要

食文化は，所属する文化の中で食についての欲求を後天的に習得，継承し，充足させてきた人々の行動の総体である［1］．具体的には，①原材料をつくることから，加工するまでの「食の生産文化」，②出来上がった加工品を運ぶことから買うまでを「食の流通文化」，③調理することから消化することまでの「食事文化」の各過程によって食文化は成立している［2］．こうした食文化から生成される食品，役務等は，地域の環境条件からなる歴史の歩み方によって異なるため，「地域ならではのもの」としての固有性と希少性を内包している．そのため，今日，地域ブランドとして多岐に渡って活用されている［3］．しかしながら，地域ならではの食文化を地域ブランドとして成立させることは，特産品の地域団体商標の認証や既存の食品等に地域という記号を付与することによって達成されるわけではない．食文化の地域ブランド化は，食文化を地域ブランドとして生産していく関係事業者（以下，地域事業者）がもつ地域価値2）を消費者と共に創り上げ，共感していく過程を通じて地域ブランドとなる．ゆえに食文化が地域ブランドとして成立するには，地域ブランドの定義にもあるように「地域事業者が協力して統一したブランドを用いて，当該地域と何らかの関係性（自然的，歴史的，風土的，文化的，社会的等）を有する商品の生産又は役務（サービス）の提供を行う取組み」［4］を行うために，地域事業者が一体となって主体的に食と地域との関係性を見出し，協力して統一した地域価値をもって地域ブランドを構築しなければならない．しかし，実際に地域ブランドを生産していく地域事業者は，日常，個々の利益活動に結びつけた事業活動を行っているため，地域価値を共有し，地域内の他の事業者と協力して統一しにくい部分がある．