ストレスによる生殖機能抑制機構

摘要

ストレスとは，本来は工業用語で「力によつて物体に生じる歪み」を意味する。 生物学において，ストレス研究の粗と呼ばれているSelyeが提唱したストレスの定義は，「外界からのあらゆる要求に対する生体の非特異的な反応」である。高等生物では，物理的ストレスに加えて心理的，社会的ストレスに暴露される機会が多い。 このような理由から，ストレスの研究は，これまで哺乳類などの高等生物で注目されてきたが，Selyeの定義によれば，細菌から高等生物に至るすべての生物がストレス反応を起こし，外界からの刺激に適応して生き残ってゆくことになる。例えば，近年問題となった細菌院内感染の原因になっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の出現は，抗生物質というストレス刺激に対する細菌のストレス反応と考えることもできる。哺乳類では，生体がストレスを感じると，視床下部、下垂体、副腎軸が活性化し，逆に性腺機能が抑制される事実が，1939年にすでにSelyeによつて報告されている。その後，Valeら（1981）によつて視床下部から分泌される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン（CRH）の構造が決定されたことにより，視床下部、下垂体、副腎軸の研究，つまりストレスの内分泌学的研究は急速に発展した。 ストレスによる性腺桟能の抑制機構にも，視床下部から分泌されるCRHが重要な役割を演じている。 本稿では個体がストレスを受けたときの基本的な内分泌変化について，実験動物の報告を中心に紹介し，後半に反袈獣が受ける具体的をストレスに関する研究報告について詳述する。