在来栽培ヒエのアミロース含有率および粗タンパク質含有率の系統間変異

摘要

栽培ヒエ（学名Echinochloa esculenta，英名Japanesebarnyard millet染色体数2n＝54の異質六倍体）は，二倍性の野生ヒエと四倍性のタイヌビュから生じたものに由来するとされる（Yabuno 1966）．ヒエは東アジア起源で朝鮮半島および日本において古くから栽培され，とくに水田稲作のできない丘陵部の畑作農村や山村では米食に代わる主要穀類として重要な役割を果たしてきた（阪本1988）．1879年には作付面積10.8万ha，1892年の生産高8.5万トンが記録されているが（農産業振興奨励会2005），1960年以降，稲作や麦作への転換が進み，栽培面積は急激に減少した．ヒエは，イネに比べ寒さや土壌の乾湿に強く，貯蔵性に優れ，水田でも畑でも栽培できることから，その後も岩手県北上山地などでは数アール規模で自家食用と種子継ぎを兼ねてヒエ栽培が細々と続けられていた．2000年前後に，県，市町村，JAが一体となって雑穀を地域振興作物として奨励し，最近ではヒエ全国作付け面積178haの85％が岩手県で作付けされるまでに増加し（農産業振興奨励会2005），地域の伝統食材として創意工夫され活用されている（農文協1988）．最近では，多くの雑穀にはイネよりも無機成分が多く含まれていること（科学技術庁資源調査会2003）やヒエ子実には抗酸化性成分が含有されていること（Watanabe 1999）などから，健康食素材として再評価され（増田2007），生産振興や調理の工夫、紹介などによる消費ニーズ拡大への対応がなされている（柏 2006）．