精神疾患の行動遺伝学

摘要

精神疾患の発症には遺伝的要因の関与が強く示唆されるものの，発症には非常に多くの疾患脆弱性遺伝子に 遺伝子発現の個人差や環境因子などが複雑に絡み合って関与している。さらには，診断の生物学的基準の欠 如も加わり，研究には多くの困難が生じている。そのような中で，精神疾患の遺伝子研究の現状がどのよう になっているのかを紹介する。精神疾患は，生涯罹患率が比較的高 い慢性疾患群で，統合失調症、双極性障害はそれぞれ約1%,自閉症は約0.8 %といわれている。厚生労働省の報告 によると，疾病負担の総合的な指標で あるDALY (障害調整生命年）の上位 10疾患中3疾患を精神疾患が占め，こ れは全体の約20%にあたる。さらに，日 本の医療費の7%以上を精神疾患が占め ている。そのため，癌や生活習'H病と 並んで解明が急がれるが，特定の生物 学的基盤の解明には至っていない。