大型船舶のバラスト水により越境移動する海洋生物対策とその課題

摘要

海洋生物の人為的な移動手段の1つとして，船舶バラスト水が挙げられる。国際海事機関（IMO）において，水域生態系を撹乱させたり，さまざまな社会被害を引き起こしたりする可能性のある生物の移動を防除する目的で，2004年に「船舶バラスト水及び沈殿物の制御及び管理に関する国際条約」，いわゆるバラスト水管理条約が採択された。現在は，各国の批准を待っている状況である。条約への批准国数が条約発効条件を満たさない理由はいくつかあるが，そのうちの1つは，認証を受け船舶に搭載可能なバラスト水管理システムの数が十分でなかったこと，すなわち，船舶への搭載のさいにおける選択肢が少なかったことが挙げられる。しかしながら，バラスト水管理システムは，現在各国の認証を受けたものはおよそ20種になってきて，すべての種類・大きさの船に対応し得るとはいいがたいものの，かなり整備されてきている。また，もう1つの理由と考えられる，PSC等舶舶検査のさいのバラスト水サンプリングについてもガイドラインが作成されつつあり，2012年3月のIMOのMEPC（環境保護委員会）で最終化される予定となっている。徐々に課題は解決され，条約は発効に向けて進んでいるようである。